(超常事変、真我利捻示)きつねと甘いぶどう

イソップ物語をモチーフとした真我利捻示の掌編小説です。

2026-01-17
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 きつねはたわわに実ったぶどうに手をのばしましたが、きつねの背の高さではとても届きません。首をのばしてみてもジャンプしてみても、高い高い木の上のぶどうにはとても届きません。それでもきつねはあきらめきれませんでした。あのぶどうはきっとどんなに甘いだろう……。きつねが木の上を見上げていると、からす達がぶどうをついばみにやってきました。きつねは木の上のからす達をにらみつけます。しかし、からす達はきつねを見おろしてガアガアと笑うばかり。やがて、甘いぶどうが実った木はどんどんやせて……。

 イヌ科の動物のように唸りながら捻示は髪を掻きむしった。血管が破裂しそうな怒りの衝動で目が覚めたのだ。激しい怒りの感情の元を辿ると、カラスのせせら笑いが幼少期の記憶を伴ってフラッシュバックした。捻示は歯を食いしばりながら大きく息をつく。そして指先に全神経を集中させた。
「……一刀両断絶【スラッシュエッヂ】」
 机の上のチューハイの缶は音も無く切り裂かれ、ズタズタのスクラップになった。
「ははっ、いい気味……」
 捻示はうっとりと舌なめずりをしながら、幸福に浸る。明日、自分が何をするのか空想するだけで背筋がぞくぞくしてたまらなかった。
 今、確かに空気を切り裂いた手を握って開く、また握っては開く……。捻示にとって、今日は間違いなく人生最高の日だった。これからは、うっかりしたら勢いで人だって殺してしまうかもしれない。面倒くさいのは御免だし、うっかり殺意が湧いても気をつけないと……。これからの人生に想いを馳せて天井を見上げているだけで、捻示は腹の底から笑いが止まらなかった。

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