ソフィー曰く、「船長からいただいたものを、私はきっと、世界に返さないといけません。だから、心躍るひとときを皆さんに差し上げたい。一瞬でも、笑顔の時間が人生に増えてほしい。そう思えることが私の幸せです」(仮タイトル)
「そっかー……。……うん、そういうことなら仕方ないか。……鈴子ちゃん、忙しいのに急に呼び出してごめんね。……じゃあね、バイバイ!」
私は確か、そんなようなことを言って、鈴子ちゃんから逃げるように走り去った。
夕暮れのキャンパスを涙目で駆け抜ける。鈴子ちゃんに追いつかれないように。鈴子ちゃんが、私を追いかけるのを諦めてくれるように。
きっと今頃、優しい鈴子ちゃんは困っている。
でも、あのままカフェテリアにいたら、私は鈴子ちゃんをもっと困らせていた。
……だって今、こんなに涙が止まらないんだもん。
すれ違う学生たちの目も構わずひたすらに走っているのに、余計な感情が頭をぐるぐる回る。
切なくて、苦しくて、涙がぎゅーっとこぼれる。
めちゃくちゃに走りながら、ついさっき鈴子ちゃんに言われた言葉を何度も、何度も、反芻する。
「ごめんね。私、二次元にしか興味なくて……」
「ごめんね。私、二次元にしか興味なくて……」
「ごめんね。私、二次元にしか興味なくて……」
……おや? なんか、記憶が曖昧だな?
私、振られたショックで記憶が飛んじゃったのかな……。
◇
(あの)
(鈴子ちゃんがさっき言ってた二次元にしか興味がない…ってどういう意味かな!?)
(聞き間違い?だったらごめん!)
学内でも人気の少なそうなエリアにある女子トイレの個室に駆け込んでから、そろそろ15分が経過しようとしていた。
……なんか、勢いでメッセージ送っちゃったけど、やっぱり既読つかないな……。さすがにあの後で語尾に絵文字で(ぴえん)はふざけすぎたかな〜……などと私が便器に腰掛けてべそべそとうなだれていると、
(桃井さん、今どこにいますか?)
(直接話したいな)
(後日でもいいけど)
(怒ってないよ!)
(でも心配です)
鈴子ちゃんらしくない、細切れの短文で立て続けのメッセージ。
私は震える手で、必死に返信を打ち込んだ。
(カフェテリアで待っててもらってもいいかな?)
(さっきは本当にごめんなさい)
既読がついてから少し間を置いて、アニメの女の子が微笑んでいるスタンプで「了解。」と返ってきた。鈴子ちゃんって、こんなスタンプ持ってたんだ。なんだか微笑ましい気持ちになってしまう。
よかった。私、まだ鈴子ちゃんが大好きだ。鈴子ちゃんと話せてるの、すっごくすっごく幸せだ。
そんなどこか嬉しい気持ちを噛み締めながら、私は鈴子ちゃんの待つカフェテリアに向かって、(涙と鼻水を拭いて顔と手をよく洗ってから)全速力で駆け出していった。
◇
「……早かったね」
「えへへー」
泣きすぎてちょっと過呼吸気味になっていたのもあって軽く息切れはしてるけど、女子サッカー部時代の身体能力は思ったより衰えてなかったみたいだ。
「飲み物とパン、おごるから。桃井さんは何にする?」
「私がおごる〜!」
「いいから! 桃井さん目真っ赤だから! そこ座ってて!」
暗に「あなたに注文しに行かれると恥ずかしい」と言われた私はちょっと面白くない気持ちになりながら、鈴子ちゃんを待つことにする。
「はい、ミックスジュースと焼きそばパン」
「鈴子ちゃんはまたコーヒー?」
「飲まないと頭回らなくて……」
「好きだねぇ〜」
「別に、単なる眠気覚ましだから」
鈴子ちゃんは大人っぽくてかっこいい。そう言うたびに、本人は別にそんなことないってちょっと嫌そうな顔をするけど、私は本気でそう思ってる。
鈴子ちゃんは、一目見たときから素敵だ。見た目も中身も、本の虫の文学少女! 仲良くなって数ヶ月が経ったらもっと素敵だ。私が困ってたら別にー、ってなんでもないような顔で助けてくれる。残念ながらタイミングを焦りすぎたせいか振られちゃったけど、でも、なんだかんだでなんとかなりそうな雰囲気になってきてて嬉しい!
「なんか、思ったより元気そうで……良かった」
「……鈴子ちゃんって、二次元しか興味ないんだよね?」
「え。あぁ、それは……。えぇと、何から説明したらいいのか……」
「私ね。もう吹っ切れたかも」
「え?」
「鈴子ちゃんの恋人? 紹介してください!」
「ぇ」
「お願いします! あの、私、他の人に言ったり……しないんで……! その、差し支えなければ? こっそりと……教えて、ほしい、かも、です……。よろしくお願いします……何卒……」
「あ、あの、恋人っていうか……そういう感じでは、ない、から……」
「じゃあ、えーっと……なんだろ。推し? でいいのかな?」
「……好きなキャラクター」
「え、なんか冷たっ! 照れてる? 誰にも言わないのに!」
「好きなキャラクターは好きなキャラクター、としか言いようがないっていうか……。普通そういうものじゃない?」
「え? そう……かも? でも、鈴子ちゃんって隠れオタク? だから……」
鈴子ちゃんはこほん、と咳払いをすると、
「私の、推し……。……えっと、便宜上、推しと言います。……推しはね、この子なんだ」
(つづく)
「そっかー……。……うん、そういうことなら仕方ないか。……鈴子ちゃん、忙しいのに急に呼び出してごめんね。……じゃあね、バイバイ!」
私は確か、そんなようなことを言って、鈴子ちゃんから逃げるように走り去った。
夕暮れのキャンパスを涙目で駆け抜ける。鈴子ちゃんに追いつかれないように。鈴子ちゃんが、私を追いかけるのを諦めてくれるように。
きっと今頃、優しい鈴子ちゃんは困っている。
でも、あのままカフェテリアにいたら、私は鈴子ちゃんをもっと困らせていた。
……だって今、こんなに涙が止まらないんだもん。
すれ違う学生たちの目も構わずひたすらに走っているのに、余計な感情が頭をぐるぐる回る。
切なくて、苦しくて、涙がぎゅーっとこぼれる。
めちゃくちゃに走りながら、ついさっき鈴子ちゃんに言われた言葉を何度も、何度も、反芻する。
「ごめんね。私、二次元にしか興味なくて……」
「ごめんね。私、二次元にしか興味なくて……」
「ごめんね。私、二次元にしか興味なくて……」
……おや? なんか、記憶が曖昧だな?
私、振られたショックで記憶が飛んじゃったのかな……。
◇
(あの)
(鈴子ちゃんがさっき言ってた二次元にしか興味がない…ってどういう意味かな!?)
(聞き間違い?だったらごめん!)
学内でも人気の少なそうなエリアにある女子トイレの個室に駆け込んでから、そろそろ15分が経過しようとしていた。
……なんか、勢いでメッセージ送っちゃったけど、やっぱり既読つかないな……。さすがにあの後で語尾に絵文字で(ぴえん)はふざけすぎたかな〜……などと私が便器に腰掛けてべそべそとうなだれていると、
(桃井さん、今どこにいますか?)
(直接話したいな)
(後日でもいいけど)
(怒ってないよ!)
(でも心配です)
鈴子ちゃんらしくない、細切れの短文で立て続けのメッセージ。
私は震える手で、必死に返信を打ち込んだ。
(カフェテリアで待っててもらってもいいかな?)
(さっきは本当にごめんなさい)
既読がついてから少し間を置いて、アニメの女の子が微笑んでいるスタンプで「了解。」と返ってきた。鈴子ちゃんって、こんなスタンプ持ってたんだ。なんだか微笑ましい気持ちになってしまう。
よかった。私、まだ鈴子ちゃんが大好きだ。鈴子ちゃんと話せてるの、すっごくすっごく幸せだ。
そんなどこか嬉しい気持ちを噛み締めながら、私は鈴子ちゃんの待つカフェテリアに向かって、(涙と鼻水を拭いて顔と手をよく洗ってから)全速力で駆け出していった。
◇
「……早かったね」
「えへへー」
泣きすぎてちょっと過呼吸気味になっていたのもあって軽く息切れはしてるけど、女子サッカー部時代の身体能力は思ったより衰えてなかったみたいだ。
「飲み物とパン、おごるから。桃井さんは何にする?」
「私がおごる〜!」
「いいから! 桃井さん目真っ赤だから! そこ座ってて!」
暗に「あなたに注文しに行かれると恥ずかしい」と言われた私はちょっと面白くない気持ちになりながら、鈴子ちゃんを待つことにする。
「はい、ミックスジュースと焼きそばパン」
「鈴子ちゃんはまたコーヒー?」
「飲まないと頭回らなくて……」
「好きだねぇ〜」
「別に、単なる眠気覚ましだから」
鈴子ちゃんは大人っぽくてかっこいい。そう言うたびに、本人は別にそんなことないってちょっと嫌そうな顔をするけど、私は本気でそう思ってる。
鈴子ちゃんは、一目見たときから素敵だ。見た目も中身も、本の虫の文学少女! 仲良くなって数ヶ月が経ったらもっと素敵だ。私が困ってたら別にー、ってなんでもないような顔で助けてくれる。残念ながらタイミングを焦りすぎたせいか振られちゃったけど、でも、なんだかんだでなんとかなりそうな雰囲気になってきてて嬉しい!
「なんか、思ったより元気そうで……良かった」
「……鈴子ちゃんって、二次元しか興味ないんだよね?」
「え。あぁ、それは……。えぇと、何から説明したらいいのか……」
「私ね。もう吹っ切れたかも」
「え?」
「鈴子ちゃんの恋人? 紹介してください!」
「ぇ」
「お願いします! あの、私、他の人に言ったり……しないんで……! その、差し支えなければ? こっそりと……教えて、ほしい、かも、です……。よろしくお願いします……何卒……」
「あ、あの、恋人っていうか……そういう感じでは、ない、から……」
「じゃあ、えーっと……なんだろ。推し? でいいのかな?」
「……好きなキャラクター」
「え、なんか冷たっ! 照れてる? 誰にも言わないのに!」
「好きなキャラクターは好きなキャラクター、としか言いようがないっていうか……。普通そういうものじゃない?」
「え? そう……かも? でも、鈴子ちゃんって隠れオタク? だから……」
鈴子ちゃんはこほん、と咳払いをすると、
「私の、推し……。……えっと、便宜上、推しと言います。……推しはね、この子なんだ」
(つづく)