ホームルームが終わって放課後。
湘南ババロア高校1年A組の教室では、みんなが慌ただしく各々の部活へと向かっていく。
対して、ぼくと友達のロバンナは教室の隅っこの席で、日々部活に精を出しているのであろうクラスメイト達を横目に、ぼんやりとスマホをいじって無為な時間を過ごしていた。
高校入学からあっという間に約二ヶ月。なんだか、他のみんなは絵に描いたみたいにキラキラ高校生してるなぁ……。ぼくら二人とは大違いで……なんというか……、
「……なんというか、青春だね〜……」
「もう、ピッピちゃんってば、今の発言おじさんみたいだよぉ」
ぼくが何気なくこぼした一言に、ロバンナは小動物のように愛らしくクスクスと笑った。
…………えっ、今のウケた!? こっ……これはグッドコミュ……、いや、パフェコミュ(パーフェクトコミュニケーション)判定では!?
うぅ、そのナチュラル困り眉にくりくりお|目目《めめ》の可愛いお顔とあざとい髪型でお口に手を当ててお上品にちっちゃく笑うの、反則すぎる……。
ぼくは二次元だとハーフツインのキャラ好きがちだけど……ハーフツインって、三次元の美少女がやってるとここまで破壊力高いんだなぁ……と、高校に入ってロバンナと一緒に行動するようになってからぼくは毎日実感してる。
ロバンナのハーフツインはいつもきっちり同じ形だ。高めの位置とふわっと広がる髪の量がちょうど犬の耳みたいで正直めっちゃかわいい。一生やめないでほしい。
……一生、一生、一生……!
うぅ、でもロバンナみたいな子と青春のひとときを一緒にいられるだけでも、人生ガチャ神引きレベルのありえない幸せなんだろうな……としか思えないので、ロバンナとの将来のことはあまり考えないようにしている……。
……だって、いつかお別れしちゃうことを常に毎日考えながら大切な猫ちゃんとの時間を過ごす飼い主さんなんていないでしょ? それと一緒。
今が幸せなんだから、先のことなんてなるべく考えずに幸せな今をとにかくめいっぱい楽しむ。それがロバンナに対するぼくの主義なのだ……。
実のところ、「青春だね〜……(それに比べてぼくたちときたら云々)」……なんてふうに言いつつも、ぼくはロバンナと過ごす時間をまるで神様がくれた束の間のボーナスタイムのように感じていた。
こんなあざと可愛い子と毎日一緒におしゃべりしながら登校して、お昼はお弁当のおかず交換したりして、放課後はたまに寄り道してゲーセンなんか行ったりしちゃって……なんて贅沢すぎる。
中学までは、辛うじて校内で行動を共にするだけ……みたいな友達(……と言っていいのだろうか……?)しかいたことのなかったぼくには、こんな何でもない平凡な女子高生生活でも、まるで夢のような毎日だ。
そうして今日もやっと授業が終わって、ぼくはロバンナと仲良くだらだら帰宅部生活を満喫……するはずだったのだ。本来なら。
「おいーっす! ロバンナとピッピいる?」
突如、1年A組の教室にずかずかと入ってきた校内一の有名人……ケンケンさんにぼくたちのクラスは一時騒然となった。
「うわっ!? ケンケンじゃん! 何で1年の教室にいんの!?」
「え、あれがケンケン? 結構可愛くね?」
「マジで背高いな……」
「やばいやばいやばい! すっごいイケメン!」
この人の名前はケンケン。……ケンケン、というのはあだ名で、本名は「剣崎ろるる」と言うらしい。(とはいえ、ケンケンさんはぼくたち1年生の間でも「ケンケン」で通っているくらいなので、彼女が|名字《剣崎さん》や|下の名前《ろるる》で呼ばれているのはほとんど見たことがない)
ケンケンさんは、陰では「湘南ババロア高校のボス猿」などと呼ばれている不良少女で、いわゆるヤンキーと言っていいだろう。
校則をガン無視して毎日ばっちりメイクをしてくる程度に素行が悪いが、顔立ちは確かに芸能人並に整っていて、すっぴんもなかなか美人で可愛いらしいとの噂だ。
ケンケンさんは、腰くらいまである金髪を一つ結びにして、セーラー服の上にスカジャンを羽織っており、まるでヤンキー漫画から飛び出してきたみたいな出立ちをしている。めっちゃ背が高くてスタイル良くて、おまけに目鼻立ちの整った美少女だから、そんな派手な格好もすっごく様になっちゃってて、なんかずるい。(おまけに、めっちゃ美人な彼女までいて、よく校内で堂々とイチャついてるところが目撃されてるらしい。うわぁ……)
……ぼくなんか、体質のせいなのかいわゆるぽっちゃり体型だから、着てみたい服を着るのも躊躇してしまうのに。……いいなぁ。ケンケンさんくらいスタイル良くて可愛かったら、人生楽しいだろうなぁ。
「んだよー、いちいちキャイキャイうるせーなーっ。お前ら全部聞こえてるぞー」
「きゃーっ、ケンケンさんが怒ってる♡」
クラスメイトの女の子が、瞳孔をハートにしておふざけ混じりの黄色い声を上げる。
「何だお前、シメられたいのか? いい度胸じゃん。それ、うりうり〜」
「あっ♡ 頭ぐりぐりやめてください♡ 許してください♡」
「ケンケンさん私も〜♪」
「こっち来てーっ♡」
……ケンケンさん、ねぇ……。
確かに顔が可愛くて、背が高くて(なんでも178cmあるとか。その辺の男子より高くない?)、ソシャゲの美少女並にグラマーなのに引き締まった身体で……。めちゃくちゃ目の保養になるルックスで、お目にかかれただけで今日一日ラッキーな気分になっちゃうのはまぁ認めざるを得ないけど、正直ぼく個人としてはあまりお近づきにはなりたくないタイプの|人間《ヤンキー》…………。
……ではあるんだけど……あるんだけども……。
「あのー、|天川《てんかわ》さん、木下さん……? なんか、ケンケンさんが呼んでるみたいだけど……」
このクラスの中では比較的真面目なメガネの学級委員長ちゃんが、教室の隅っこにいたぼくとロバンナに声をかける。
「なんだよー、ピッピもロバンナもーっ。お前らいるなら返事くらいしろよなーっ」
「ご、ごめんなさいぃ……」
ずかずかと大股で近づいてきたケンケンさんに、ロバンナはふるふると情けない謝罪の声を漏らしながら小さく縮こまる。……あ、あざとい! 儚げで弱そうな美少女なうえに、ウィスパーボイス混じりの甘ったるいアニメ声だからなおあざとい……!
「なんだよー、アタシそんな怖く見える?」
ケンケンさんはひょいとしゃがんで、座っていたロバンナに目線を合わせる。
「そ、そんなことっ! ない、です……っ!」
ロバンナは顔に縦線を浮かべたまま、慌ててぶんぶんと首を横に振った。
「本当かな〜?」
チェシャ猫のようにイタズラっぽくニヤニヤ笑うケンケンさんに、ロバンナはあわわわわ……とテンパって、半分魂が抜けそうな顔になっている。
……いやいや、さすがにビビりすぎすぎでしょ。
しかし、ロバンナには悪いけど、いわゆる「かわいそうかわいい」とはこのことだろうか……? ケンケンさんがついいじりたくなるのもわからんでもない。
「ピッピはアタシのこと怖くないもんなー?」
ケンケンさんがぼくの方を向いて、無邪気にニヤッと笑いかける。バシバシのまつげに縁取られたぱっちりした瞳と白い歯が眩しい。
「そりゃあ、まあ……。悪い人ではないのかなって思います。たぶん」
「なんじゃそりゃ! あはは、ありがとー♪」
「はは、どうも……」
あー、もう! 二次元顔負けってくらいスタイルのいい高身長ヤンキー美少女にバカみたいに明るくて気さくな性格が搭載されてたら、そりゃ嬉しくなっちゃうだろ。
悔しい……ぼくはこんな軽薄そうなヤンキー女(※彼女持ち)(先輩に対して失礼すぎる感想だけど、ごめん、脳内でそう思うくらいは許してほしい)なんかにメロついてないで、ロバンナ一筋でいたいのに……ッッ。
せめて、くそぅケンケンさんめっちゃ可愛いじゃん……と思ってることを態度には出さないようにする。
ケンケンさんにメロついてることがバレて、ぼくの唯一無二にして至上の初めてのお友達、ぼくにとっての人生最高の日を毎日更新してくれる天使様……(友達に対してこんなベクトルの重感情抱いてるのキモすぎるけど、脳内にとどめてるから許して!)であるロバンナに嫌われたりしたら、それこそ僕の高校生活ゲームオーバー、目の前真っ暗……だ。
それに、ロバンナだってぼく以外に友達らしい友達はいないんだから、寂しい思いなんて絶対させたくない。ちょっとくらいビビりで弱そうで勉強も運動も大の苦手なドジっ子だからって、こんな可愛い子をひとりぼっちにさせる世界なんて、絶対に絶対に間違っている。
いやまぁ、ぼくは正直面食いで、好きなタイプの女の子には食いつきがち(もちろん脳内だけでね)なのはそうなんだけど、もしロバンナがぼく好みの可憐な|仔鹿《バンビ》の如き美少女じゃなかったとしても、ぼくはきっとロバンナのことを好きになっていたと思う。
はぁ……そうだろうなー、きっと好きになってただろうなー…………好きに……好きに……すなわちライク超えてラブ……。
……うぅ……、好きだよ悪いか! この子となら、この子とならワンチャン付き合えないかな……とか思ってないと言ったら嘘になるけど……やっぱり、さすがに高望みすぎ……? 調子乗りすぎ……?
まぁね……そりゃわかってますよ。いくら唯一の友達だからって……いや、友達だからこそ? とにかく、ぼくなんかがロバンナみたいな子に告白だなんて、分が悪い賭けです。おそらく負け確です。
うぅ、ちょっとたまたま仲良くなれて毎日一緒におしゃべりしてるからって、それだけで一方的に好きになんかなっちゃって……。我ながら友達耐性なさすぎか? チョロすぎか? とは思わなくはないものの……でもでも、こんな美少女と毎日ふたりっきりで過ごしてたらそりゃ、ぼくみたいな陰キャはおかしくもなるさ!
……うぅ、ロバンナめ、罪な|女《ひと》! いつかぼくと疎遠になっても悪い女とか男とかに引っかかりませんように! がんばれ、幸せになれ……!
……いや、そもそも理性ではわかっている。ロバンナみたいな放っておいても彼女や彼氏の一人二人できそうな可愛い子と、万年片思い体質のぼくなんかじゃ、もしワンチャン叶って付き合えたとしても、とてもとても釣り合わない。
ていうか、もっと明け透けに言ってしまえば、ぼく太ってるし、こんな美少女と付き合ったりなんかしちゃったりしたらロバンナともども笑いものになってしまうのでは!? ただでさえ唯一の友達同士で常に一緒に行動している今だって、ちょっと周りの目を気にしてしまっているのに、そのうえ恋人としてお付き合いだなんて……やっぱり、とてもとても……。
ぼくだって、このぽっちゃり体型晒してカモシカのような脚をした美少女と堂々と付き合えるかって言われたらぶっちゃけ恥ずかしいし、それに、こんなこと言っちゃ自分でもみじめだけど、その……ぼくなんかと付き合ってるのがバレたら、ロバンナがかわいそう、かも……。
はぁ〜……やだやだやだやだ付き合いたい、デートしたい、キスしたい、頭なでなでしたい、結婚したい、一生一緒がいい、ぼくが一番でぼくが特別でぼくだけに微笑んでもらいたい……。
「おーいピッピ、生きてる?」
「……はっ!」
「? なんかすげえ顔してたけど大丈夫?」
「あー……うん、まぁ……へへへ……」
えぇっ、そんなにヤバい顔してた?
ぼくの顔を遠慮なしにずいっとのぞき込んでくるケンケンさんから、ぼくは気まずく視線を逸らす。
「ふーん? まいっか、そんじゃ部室行こうぜ部室!」
「あ、はいぃっ……ただいま……! ……って、きゃあ!」
ロバンナが慌てて立ち上がろうとした拍子に、ペンケースをひっくり返して中に入っていた諸々を机の上からバラバラと落としてしまった。
「おーおー、派手にぶちまけたなー」
ケンケンさんがデカい身体を屈めて、床に落ちたロバンナの文房具を拾おうとする。
──させないッ!
ぼくだって、ケンケンさんに負けじと(?)、シュバババ……! と言わんばかりの勢いで散らばったシャーペンやら消しゴムやらをせっせと拾い集めてみせる。
……ていうか、ロバンナの持ってる文房具、見事にファンシーキャラのグッズばっかり。いいなぁ、THE・女の子らしくて可愛いなぁ……。今度こういうものが売ってるお店に連れてってもらうのもアリかもなぁ……。放課後……は最近ケンケンさん達に付き合わされてばかりだから、週末誘ってみるとか……。で、できるか!? 自分から誘えるのか、いけるのか、ぼく!? いや、でも、ロバンナも休日はお家でゆっくりしたい派かもだし迷惑かも……。
「あ、ありがとうございます〜……すみません……もうしません……。ごっ、ごめんねぇ、ピッピちゃんもありがとう〜……」
「え、えへへ、それほどでも〜……」
ああ、もう! 外見で勝負できないならせめて印象だけでも爽やかにしていたいのに、なんだか今日は変に緊張していてキモい笑みを浮かべることしかできない。
それもこれも、たぶんケンケンさんが近くにいるせいなんじゃないかと思う。だって、ケンケンさんってぶっちゃけ可愛いし、ありえんスタイルいいし、誰に対しても距離バカ近いし……。ロバンナだって今のところはガタガタ怯えてるだけだけど……ほら、第一印象最悪から始まるのって、少女漫画の定石じゃん!? いや、もちろんぼくだって現実とフィクションの区別はついてるつもりだけど……。うぅ、でもケンケンさんなら正直、顔の良さと愛嬌で誰に対してもゴリ押しで堕とせそう……。実際ぼくだって、あのぺかーっとした笑顔とソシャゲ美少女並の抜群のスタイルを浴びたら正直グラッときちゃうし。
ケンケンさんに罪はないけれど、彼女の存在はぼくとロバンナの平穏な日々を脅かす天敵だ。顔の良さは罪! 陰キャに対しても距離感近いのは罪! 身長も胸もデカいのは罪……!
「もう、ケンケンさんってば、別に教室まで迎えに来なくても良かったのに……」
「えーっ。だって、お前らアタシが呼ばないと永遠に教室でスマホいじってるじゃん」
うぐぐ……と今にも唸って威嚇してやりたい気持ちを胸の奥に封印して、ぼくは平静を装いつつケンケンさんと無難(?)な会話のキャッチボールをする。ロバンナがケンケンさん達にビビりまくってるので、ロバンナの分までぼくががんばってコミュニケーションをとらなければ。
そしてゆくゆくは、ケンケンさんが留年回避のために立ち上げた部活、その名も『ババ校(※ぼくたちの通う湘南ババロア高校の略称だ)なんでも屋倶楽部』からなるべく穏便に抜けさせていただく……なんとしても!
……とは思っているものの、いい感じに退部させていただく突破口はいまだに見つからないまま、結局ぼくとロバンナはケンケンさん達の言いなりになってしまっている状態だ。
はぁ……ぼくってチキンだなぁ。こんな体たらくじゃ、ロバンナのことをビビリだとかとやかく言えないかも。(もちろん、そんな暴言は脳内でしか言ってないけども)
そんなこんなで、ぼくたちはケンケンさんに連行されて、校舎一階の渡り廊下から『ババ校なんでも屋倶楽部』の部室がある部室棟へと移動する。
『ババ校なんでも屋倶楽部』に割り当てられた部室は珍しく和室(かつては茶道部が使っていた部室で、ここしか余っている部屋がなかったらしい)なので、実は訪れるたびにちょっとだけワクワクしていたり。ロバンナと畳の上でまったりゴロゴロスマホ見たり、他にすることもないので宿題したり、(なぜか部室の備え付けの)オセロで遊んだり、なんだか、小学生の頃の学童保育を思い出す感じ……このぬるくてまったりした空気、ぶっちゃけ嫌いではない。ケンケンさん達とはなるべくこれ以上関わりたくないけど、ぼく達はこのぬるま湯みたいな空間の心地よさに絡め取られてしまっている。
ああ……良くない。非常に良くない。(などと思いつつ、今日もぼくはおばあちゃんの家みたいなゆる〜い部室の空気に敗北して、ロバンナとまったりゴロゴロしてしまうのだろう……悔しい!)
そんなふうなことを考えながら、ぼくはロバンナと一緒にケンケンさんの後をついて部室までてくてくと歩いていく。
部室前に到着すると、『ババ高なんでも屋倶楽部』と太い油性ペンでデカデカと書かれた紙(これ、よく見たらプリントの裏紙だ……)が貼られた引き戸を、ケンケンさんが勢いよくガラーッ! と開けた。
「いよーっす! チャコ、お待たせーっ!」
「おっそーい。待ちくたびれたんだけど」
チャコさんは畳に敷かれた座布団に女の子座りして、文庫本を読んでいた。彼女の傍らには、図書室で借りてきたらしい本の山(おそらくチャコさんが好む詩集とか短歌の本とかだろう)が積まれている。
そう、この人こそが「ケンケンさんのめちゃくちゃ美人な彼女」だ。
サラツヤの黒髪ロングウェーブに、透き通るように白い肌、上品でありながらどこか仄暗い色気も感じさせる目元。「お人形さん」という形容詞がぴったりの容姿に、清楚でクラシックなセーラー服がありえないくらい似合う。
ありふれた古くさい和室も、セーラー服姿のチャコさんが鎮座していると、レトロ趣味のサブカルオタク垂涎の古風な味わいを醸し出してすごく絵になる。
チャコさんのルックスは、陽キャ全開のケンケンさんとは正反対のどこかの陰のある感じで、これまた恐ろしく美人だけど、困ったことにこの人はめちゃくちゃ無愛想で性格もかなりキツい。いつも仏頂面で睨んでるような目つきで人を見るし、口を開けば漫画のドS系キャラみたいに毒舌だし、この人と話すのはロバンナじゃなくても普通に怖い。
恋人のケンケンさんにもよく突っかかるし、この二人はしょっちゅう口喧嘩してる。身長178cmのケンケンさんとお人形みたいに美しいチャコさんが言い合っているのは、実際に目の当たりにするとかなり迫力があってちょっと怖い。
「うるっせーな、どうせなんでも屋の仕事の依頼なんて来てないんだからいいじゃんかよー」
「アンタねえ……相変わらず勉強しないし、部活の成果も出せなくて、また留年してもいいわけ? 言っとくけど、退学させられたら今度こそ別れるから」
「またまたぁ〜」
「うっさい。チャコは本気だから。バカバカバーカ、バカケンケン」
……と、こんな調子で日常的にギャンギャン言い合ってる二人だけど、実は相当なバカップル……えー、失礼。……もといラブラブカップルでもある。
校内だろうが街中だろうが、白昼堂々見せつけるように腕を絡ませながら歩いているし、なんと中庭のベンチでキスしてるところを目撃した生徒もいるらしい。
くそぅ。不良バカップルめ……。特にこちら側に正当な理由があるわけではないけど、なんかむかつく……。
まあ、個人の感情としてはああ言うの見てるとさすがにすっごーくモヤモヤしちゃうけど、理屈として納得はできる。そうだよなー、あれくらい美人同士のカップルだったら外見コンプのぼくなんかと違って怖い者なしだよなー。
むしろ「きゃ〜っ♡ お二人仲睦まじくて目の保養です〜っ♡」「やっぱケンチャコ(ケンケン×チャコ、ということらしいです……?)よな〜」「アレで日常的にふうふ喧嘩してるの萌え萌えすぎるッッ!」なんて言われちゃったりしてさ。
……ぼくが言ってもあんまり説得力ないだろうけど、三次元の一般人のことそんなふうに堂々と消費? とかしない方がいいですよ! マジのマジで!
湘南ババロア高校1年A組の教室では、みんなが慌ただしく各々の部活へと向かっていく。
対して、ぼくと友達のロバンナは教室の隅っこの席で、日々部活に精を出しているのであろうクラスメイト達を横目に、ぼんやりとスマホをいじって無為な時間を過ごしていた。
高校入学からあっという間に約二ヶ月。なんだか、他のみんなは絵に描いたみたいにキラキラ高校生してるなぁ……。ぼくら二人とは大違いで……なんというか……、
「……なんというか、青春だね〜……」
「もう、ピッピちゃんってば、今の発言おじさんみたいだよぉ」
ぼくが何気なくこぼした一言に、ロバンナは小動物のように愛らしくクスクスと笑った。
…………えっ、今のウケた!? こっ……これはグッドコミュ……、いや、パフェコミュ(パーフェクトコミュニケーション)判定では!?
うぅ、そのナチュラル困り眉にくりくりお|目目《めめ》の可愛いお顔とあざとい髪型でお口に手を当ててお上品にちっちゃく笑うの、反則すぎる……。
ぼくは二次元だとハーフツインのキャラ好きがちだけど……ハーフツインって、三次元の美少女がやってるとここまで破壊力高いんだなぁ……と、高校に入ってロバンナと一緒に行動するようになってからぼくは毎日実感してる。
ロバンナのハーフツインはいつもきっちり同じ形だ。高めの位置とふわっと広がる髪の量がちょうど犬の耳みたいで正直めっちゃかわいい。一生やめないでほしい。
……一生、一生、一生……!
うぅ、でもロバンナみたいな子と青春のひとときを一緒にいられるだけでも、人生ガチャ神引きレベルのありえない幸せなんだろうな……としか思えないので、ロバンナとの将来のことはあまり考えないようにしている……。
……だって、いつかお別れしちゃうことを常に毎日考えながら大切な猫ちゃんとの時間を過ごす飼い主さんなんていないでしょ? それと一緒。
今が幸せなんだから、先のことなんてなるべく考えずに幸せな今をとにかくめいっぱい楽しむ。それがロバンナに対するぼくの主義なのだ……。
実のところ、「青春だね〜……(それに比べてぼくたちときたら云々)」……なんてふうに言いつつも、ぼくはロバンナと過ごす時間をまるで神様がくれた束の間のボーナスタイムのように感じていた。
こんなあざと可愛い子と毎日一緒におしゃべりしながら登校して、お昼はお弁当のおかず交換したりして、放課後はたまに寄り道してゲーセンなんか行ったりしちゃって……なんて贅沢すぎる。
中学までは、辛うじて校内で行動を共にするだけ……みたいな友達(……と言っていいのだろうか……?)しかいたことのなかったぼくには、こんな何でもない平凡な女子高生生活でも、まるで夢のような毎日だ。
そうして今日もやっと授業が終わって、ぼくはロバンナと仲良くだらだら帰宅部生活を満喫……するはずだったのだ。本来なら。
「おいーっす! ロバンナとピッピいる?」
突如、1年A組の教室にずかずかと入ってきた校内一の有名人……ケンケンさんにぼくたちのクラスは一時騒然となった。
「うわっ!? ケンケンじゃん! 何で1年の教室にいんの!?」
「え、あれがケンケン? 結構可愛くね?」
「マジで背高いな……」
「やばいやばいやばい! すっごいイケメン!」
この人の名前はケンケン。……ケンケン、というのはあだ名で、本名は「剣崎ろるる」と言うらしい。(とはいえ、ケンケンさんはぼくたち1年生の間でも「ケンケン」で通っているくらいなので、彼女が|名字《剣崎さん》や|下の名前《ろるる》で呼ばれているのはほとんど見たことがない)
ケンケンさんは、陰では「湘南ババロア高校のボス猿」などと呼ばれている不良少女で、いわゆるヤンキーと言っていいだろう。
校則をガン無視して毎日ばっちりメイクをしてくる程度に素行が悪いが、顔立ちは確かに芸能人並に整っていて、すっぴんもなかなか美人で可愛いらしいとの噂だ。
ケンケンさんは、腰くらいまである金髪を一つ結びにして、セーラー服の上にスカジャンを羽織っており、まるでヤンキー漫画から飛び出してきたみたいな出立ちをしている。めっちゃ背が高くてスタイル良くて、おまけに目鼻立ちの整った美少女だから、そんな派手な格好もすっごく様になっちゃってて、なんかずるい。(おまけに、めっちゃ美人な彼女までいて、よく校内で堂々とイチャついてるところが目撃されてるらしい。うわぁ……)
……ぼくなんか、体質のせいなのかいわゆるぽっちゃり体型だから、着てみたい服を着るのも躊躇してしまうのに。……いいなぁ。ケンケンさんくらいスタイル良くて可愛かったら、人生楽しいだろうなぁ。
「んだよー、いちいちキャイキャイうるせーなーっ。お前ら全部聞こえてるぞー」
「きゃーっ、ケンケンさんが怒ってる♡」
クラスメイトの女の子が、瞳孔をハートにしておふざけ混じりの黄色い声を上げる。
「何だお前、シメられたいのか? いい度胸じゃん。それ、うりうり〜」
「あっ♡ 頭ぐりぐりやめてください♡ 許してください♡」
「ケンケンさん私も〜♪」
「こっち来てーっ♡」
……ケンケンさん、ねぇ……。
確かに顔が可愛くて、背が高くて(なんでも178cmあるとか。その辺の男子より高くない?)、ソシャゲの美少女並にグラマーなのに引き締まった身体で……。めちゃくちゃ目の保養になるルックスで、お目にかかれただけで今日一日ラッキーな気分になっちゃうのはまぁ認めざるを得ないけど、正直ぼく個人としてはあまりお近づきにはなりたくないタイプの|人間《ヤンキー》…………。
……ではあるんだけど……あるんだけども……。
「あのー、|天川《てんかわ》さん、木下さん……? なんか、ケンケンさんが呼んでるみたいだけど……」
このクラスの中では比較的真面目なメガネの学級委員長ちゃんが、教室の隅っこにいたぼくとロバンナに声をかける。
「なんだよー、ピッピもロバンナもーっ。お前らいるなら返事くらいしろよなーっ」
「ご、ごめんなさいぃ……」
ずかずかと大股で近づいてきたケンケンさんに、ロバンナはふるふると情けない謝罪の声を漏らしながら小さく縮こまる。……あ、あざとい! 儚げで弱そうな美少女なうえに、ウィスパーボイス混じりの甘ったるいアニメ声だからなおあざとい……!
「なんだよー、アタシそんな怖く見える?」
ケンケンさんはひょいとしゃがんで、座っていたロバンナに目線を合わせる。
「そ、そんなことっ! ない、です……っ!」
ロバンナは顔に縦線を浮かべたまま、慌ててぶんぶんと首を横に振った。
「本当かな〜?」
チェシャ猫のようにイタズラっぽくニヤニヤ笑うケンケンさんに、ロバンナはあわわわわ……とテンパって、半分魂が抜けそうな顔になっている。
……いやいや、さすがにビビりすぎすぎでしょ。
しかし、ロバンナには悪いけど、いわゆる「かわいそうかわいい」とはこのことだろうか……? ケンケンさんがついいじりたくなるのもわからんでもない。
「ピッピはアタシのこと怖くないもんなー?」
ケンケンさんがぼくの方を向いて、無邪気にニヤッと笑いかける。バシバシのまつげに縁取られたぱっちりした瞳と白い歯が眩しい。
「そりゃあ、まあ……。悪い人ではないのかなって思います。たぶん」
「なんじゃそりゃ! あはは、ありがとー♪」
「はは、どうも……」
あー、もう! 二次元顔負けってくらいスタイルのいい高身長ヤンキー美少女にバカみたいに明るくて気さくな性格が搭載されてたら、そりゃ嬉しくなっちゃうだろ。
悔しい……ぼくはこんな軽薄そうなヤンキー女(※彼女持ち)(先輩に対して失礼すぎる感想だけど、ごめん、脳内でそう思うくらいは許してほしい)なんかにメロついてないで、ロバンナ一筋でいたいのに……ッッ。
せめて、くそぅケンケンさんめっちゃ可愛いじゃん……と思ってることを態度には出さないようにする。
ケンケンさんにメロついてることがバレて、ぼくの唯一無二にして至上の初めてのお友達、ぼくにとっての人生最高の日を毎日更新してくれる天使様……(友達に対してこんなベクトルの重感情抱いてるのキモすぎるけど、脳内にとどめてるから許して!)であるロバンナに嫌われたりしたら、それこそ僕の高校生活ゲームオーバー、目の前真っ暗……だ。
それに、ロバンナだってぼく以外に友達らしい友達はいないんだから、寂しい思いなんて絶対させたくない。ちょっとくらいビビりで弱そうで勉強も運動も大の苦手なドジっ子だからって、こんな可愛い子をひとりぼっちにさせる世界なんて、絶対に絶対に間違っている。
いやまぁ、ぼくは正直面食いで、好きなタイプの女の子には食いつきがち(もちろん脳内だけでね)なのはそうなんだけど、もしロバンナがぼく好みの可憐な|仔鹿《バンビ》の如き美少女じゃなかったとしても、ぼくはきっとロバンナのことを好きになっていたと思う。
はぁ……そうだろうなー、きっと好きになってただろうなー…………好きに……好きに……すなわちライク超えてラブ……。
……うぅ……、好きだよ悪いか! この子となら、この子とならワンチャン付き合えないかな……とか思ってないと言ったら嘘になるけど……やっぱり、さすがに高望みすぎ……? 調子乗りすぎ……?
まぁね……そりゃわかってますよ。いくら唯一の友達だからって……いや、友達だからこそ? とにかく、ぼくなんかがロバンナみたいな子に告白だなんて、分が悪い賭けです。おそらく負け確です。
うぅ、ちょっとたまたま仲良くなれて毎日一緒におしゃべりしてるからって、それだけで一方的に好きになんかなっちゃって……。我ながら友達耐性なさすぎか? チョロすぎか? とは思わなくはないものの……でもでも、こんな美少女と毎日ふたりっきりで過ごしてたらそりゃ、ぼくみたいな陰キャはおかしくもなるさ!
……うぅ、ロバンナめ、罪な|女《ひと》! いつかぼくと疎遠になっても悪い女とか男とかに引っかかりませんように! がんばれ、幸せになれ……!
……いや、そもそも理性ではわかっている。ロバンナみたいな放っておいても彼女や彼氏の一人二人できそうな可愛い子と、万年片思い体質のぼくなんかじゃ、もしワンチャン叶って付き合えたとしても、とてもとても釣り合わない。
ていうか、もっと明け透けに言ってしまえば、ぼく太ってるし、こんな美少女と付き合ったりなんかしちゃったりしたらロバンナともども笑いものになってしまうのでは!? ただでさえ唯一の友達同士で常に一緒に行動している今だって、ちょっと周りの目を気にしてしまっているのに、そのうえ恋人としてお付き合いだなんて……やっぱり、とてもとても……。
ぼくだって、このぽっちゃり体型晒してカモシカのような脚をした美少女と堂々と付き合えるかって言われたらぶっちゃけ恥ずかしいし、それに、こんなこと言っちゃ自分でもみじめだけど、その……ぼくなんかと付き合ってるのがバレたら、ロバンナがかわいそう、かも……。
はぁ〜……やだやだやだやだ付き合いたい、デートしたい、キスしたい、頭なでなでしたい、結婚したい、一生一緒がいい、ぼくが一番でぼくが特別でぼくだけに微笑んでもらいたい……。
「おーいピッピ、生きてる?」
「……はっ!」
「? なんかすげえ顔してたけど大丈夫?」
「あー……うん、まぁ……へへへ……」
えぇっ、そんなにヤバい顔してた?
ぼくの顔を遠慮なしにずいっとのぞき込んでくるケンケンさんから、ぼくは気まずく視線を逸らす。
「ふーん? まいっか、そんじゃ部室行こうぜ部室!」
「あ、はいぃっ……ただいま……! ……って、きゃあ!」
ロバンナが慌てて立ち上がろうとした拍子に、ペンケースをひっくり返して中に入っていた諸々を机の上からバラバラと落としてしまった。
「おーおー、派手にぶちまけたなー」
ケンケンさんがデカい身体を屈めて、床に落ちたロバンナの文房具を拾おうとする。
──させないッ!
ぼくだって、ケンケンさんに負けじと(?)、シュバババ……! と言わんばかりの勢いで散らばったシャーペンやら消しゴムやらをせっせと拾い集めてみせる。
……ていうか、ロバンナの持ってる文房具、見事にファンシーキャラのグッズばっかり。いいなぁ、THE・女の子らしくて可愛いなぁ……。今度こういうものが売ってるお店に連れてってもらうのもアリかもなぁ……。放課後……は最近ケンケンさん達に付き合わされてばかりだから、週末誘ってみるとか……。で、できるか!? 自分から誘えるのか、いけるのか、ぼく!? いや、でも、ロバンナも休日はお家でゆっくりしたい派かもだし迷惑かも……。
「あ、ありがとうございます〜……すみません……もうしません……。ごっ、ごめんねぇ、ピッピちゃんもありがとう〜……」
「え、えへへ、それほどでも〜……」
ああ、もう! 外見で勝負できないならせめて印象だけでも爽やかにしていたいのに、なんだか今日は変に緊張していてキモい笑みを浮かべることしかできない。
それもこれも、たぶんケンケンさんが近くにいるせいなんじゃないかと思う。だって、ケンケンさんってぶっちゃけ可愛いし、ありえんスタイルいいし、誰に対しても距離バカ近いし……。ロバンナだって今のところはガタガタ怯えてるだけだけど……ほら、第一印象最悪から始まるのって、少女漫画の定石じゃん!? いや、もちろんぼくだって現実とフィクションの区別はついてるつもりだけど……。うぅ、でもケンケンさんなら正直、顔の良さと愛嬌で誰に対してもゴリ押しで堕とせそう……。実際ぼくだって、あのぺかーっとした笑顔とソシャゲ美少女並の抜群のスタイルを浴びたら正直グラッときちゃうし。
ケンケンさんに罪はないけれど、彼女の存在はぼくとロバンナの平穏な日々を脅かす天敵だ。顔の良さは罪! 陰キャに対しても距離感近いのは罪! 身長も胸もデカいのは罪……!
「もう、ケンケンさんってば、別に教室まで迎えに来なくても良かったのに……」
「えーっ。だって、お前らアタシが呼ばないと永遠に教室でスマホいじってるじゃん」
うぐぐ……と今にも唸って威嚇してやりたい気持ちを胸の奥に封印して、ぼくは平静を装いつつケンケンさんと無難(?)な会話のキャッチボールをする。ロバンナがケンケンさん達にビビりまくってるので、ロバンナの分までぼくががんばってコミュニケーションをとらなければ。
そしてゆくゆくは、ケンケンさんが留年回避のために立ち上げた部活、その名も『ババ校(※ぼくたちの通う湘南ババロア高校の略称だ)なんでも屋倶楽部』からなるべく穏便に抜けさせていただく……なんとしても!
……とは思っているものの、いい感じに退部させていただく突破口はいまだに見つからないまま、結局ぼくとロバンナはケンケンさん達の言いなりになってしまっている状態だ。
はぁ……ぼくってチキンだなぁ。こんな体たらくじゃ、ロバンナのことをビビリだとかとやかく言えないかも。(もちろん、そんな暴言は脳内でしか言ってないけども)
そんなこんなで、ぼくたちはケンケンさんに連行されて、校舎一階の渡り廊下から『ババ校なんでも屋倶楽部』の部室がある部室棟へと移動する。
『ババ校なんでも屋倶楽部』に割り当てられた部室は珍しく和室(かつては茶道部が使っていた部室で、ここしか余っている部屋がなかったらしい)なので、実は訪れるたびにちょっとだけワクワクしていたり。ロバンナと畳の上でまったりゴロゴロスマホ見たり、他にすることもないので宿題したり、(なぜか部室の備え付けの)オセロで遊んだり、なんだか、小学生の頃の学童保育を思い出す感じ……このぬるくてまったりした空気、ぶっちゃけ嫌いではない。ケンケンさん達とはなるべくこれ以上関わりたくないけど、ぼく達はこのぬるま湯みたいな空間の心地よさに絡め取られてしまっている。
ああ……良くない。非常に良くない。(などと思いつつ、今日もぼくはおばあちゃんの家みたいなゆる〜い部室の空気に敗北して、ロバンナとまったりゴロゴロしてしまうのだろう……悔しい!)
そんなふうなことを考えながら、ぼくはロバンナと一緒にケンケンさんの後をついて部室までてくてくと歩いていく。
部室前に到着すると、『ババ高なんでも屋倶楽部』と太い油性ペンでデカデカと書かれた紙(これ、よく見たらプリントの裏紙だ……)が貼られた引き戸を、ケンケンさんが勢いよくガラーッ! と開けた。
「いよーっす! チャコ、お待たせーっ!」
「おっそーい。待ちくたびれたんだけど」
チャコさんは畳に敷かれた座布団に女の子座りして、文庫本を読んでいた。彼女の傍らには、図書室で借りてきたらしい本の山(おそらくチャコさんが好む詩集とか短歌の本とかだろう)が積まれている。
そう、この人こそが「ケンケンさんのめちゃくちゃ美人な彼女」だ。
サラツヤの黒髪ロングウェーブに、透き通るように白い肌、上品でありながらどこか仄暗い色気も感じさせる目元。「お人形さん」という形容詞がぴったりの容姿に、清楚でクラシックなセーラー服がありえないくらい似合う。
ありふれた古くさい和室も、セーラー服姿のチャコさんが鎮座していると、レトロ趣味のサブカルオタク垂涎の古風な味わいを醸し出してすごく絵になる。
チャコさんのルックスは、陽キャ全開のケンケンさんとは正反対のどこかの陰のある感じで、これまた恐ろしく美人だけど、困ったことにこの人はめちゃくちゃ無愛想で性格もかなりキツい。いつも仏頂面で睨んでるような目つきで人を見るし、口を開けば漫画のドS系キャラみたいに毒舌だし、この人と話すのはロバンナじゃなくても普通に怖い。
恋人のケンケンさんにもよく突っかかるし、この二人はしょっちゅう口喧嘩してる。身長178cmのケンケンさんとお人形みたいに美しいチャコさんが言い合っているのは、実際に目の当たりにするとかなり迫力があってちょっと怖い。
「うるっせーな、どうせなんでも屋の仕事の依頼なんて来てないんだからいいじゃんかよー」
「アンタねえ……相変わらず勉強しないし、部活の成果も出せなくて、また留年してもいいわけ? 言っとくけど、退学させられたら今度こそ別れるから」
「またまたぁ〜」
「うっさい。チャコは本気だから。バカバカバーカ、バカケンケン」
……と、こんな調子で日常的にギャンギャン言い合ってる二人だけど、実は相当なバカップル……えー、失礼。……もといラブラブカップルでもある。
校内だろうが街中だろうが、白昼堂々見せつけるように腕を絡ませながら歩いているし、なんと中庭のベンチでキスしてるところを目撃した生徒もいるらしい。
くそぅ。不良バカップルめ……。特にこちら側に正当な理由があるわけではないけど、なんかむかつく……。
まあ、個人の感情としてはああ言うの見てるとさすがにすっごーくモヤモヤしちゃうけど、理屈として納得はできる。そうだよなー、あれくらい美人同士のカップルだったら外見コンプのぼくなんかと違って怖い者なしだよなー。
むしろ「きゃ〜っ♡ お二人仲睦まじくて目の保養です〜っ♡」「やっぱケンチャコ(ケンケン×チャコ、ということらしいです……?)よな〜」「アレで日常的にふうふ喧嘩してるの萌え萌えすぎるッッ!」なんて言われちゃったりしてさ。
……ぼくが言ってもあんまり説得力ないだろうけど、三次元の一般人のことそんなふうに堂々と消費? とかしない方がいいですよ! マジのマジで!