うげ、ひどい顔。
洗面所の鏡に映ったオレの顔があまりにもしょぼくれてるから、思わずため息が出てしまう。
なーんか、今の顔「第一印象=冴えないメガネくん」って感じ。
……せっかくおニューのフレームのメガネまでおろしてきたのにこんな顔してたら全然台無しじゃん。
「……もっと喜べっつーの、オレ」
……今日寝る直前までは普通に…っていうか、むしろマジメガマックス楽しすぎてヤバいくらいだった。
一緒にレースゲームしてハヤトっちがヤバい負け方したときはお腹が痛くなるくらい笑ったし、二人で作ったカレーは激うまだったし、っていうか…そう! カレー作ってるときとか超ドキドキした! なんか特別な二人の共同作業!みたいな感じで…! っていうかハヤトっち意外と手際いいし。あと、二人でスーパーに買い出しに行って食材買って、寝る前のお菓子も二人でいろいろ見て選んで買って……そしたらジュンっちに見られたら叱られそうなくらい買い物カゴがお菓子でいっぱいになっちゃって──(カレーの隠し味に使う激辛調味料も本当は買いたかったけどハヤトっちに今日はダメ!って言われたのでしぶしぶ我慢した)
もし将来ハヤトっちと……同棲か結婚かはわかんないけど、とにかく一緒に住んだら毎日こんな感じなのかなーって想像してみたらマジメガハッピーすぎて、絶対ハヤトっちのこと放したくないって、ずーっと恋人でいてほしいって、オレは思ってたのに……。
……はぁ。
深いため息が出るのと同時に、今日寝る直前にハヤトっちと話したことを思い出す。
「へへ、今日すっげー楽しかった!」
「はいっす! オレもオレも! ハヤトっちのお家メガ楽しすぎてヤバすぎっす! えへへ…」
ハヤトっちがベッドを譲ってくれたのでオレはロフトベッド、ハヤトっちは床でお布団。……せっかくだし一緒の布団で寝れば良かったなー、なんて思いつつも、ハシゴを使って上る高い位置のベッド(そして、ハヤトっちがいつも寝ているベッド)にはワクワクドキドキしちゃってたり。
「ねぇねぇ、ハヤトっちは将来住むならどんなお家がいいっすか!?」
「へっ!? 家!?」
「はいっす! やっぱり庭付き? 一戸建て? 場所は事務所の近くがいいっすよね〜……。あとあと、オレはネコっちが飼いたいっす! 一匹だけだと寂しいかもだから兄弟でお迎えして……。それから、寝る部屋は絶対二人一緒で……その、ベッドも一緒がいいんすけど、ハヤトっち的にはどうっすか!?」
「えっ、えぇ…!? ちょ、ちょっと待てってば! そんな急に言われても……」
「え〜っ、いいじゃないっすか! 想像するだけならタダっすよ! タダ! それに、その…こういうのって具体的に決めておいた方が貯金のモチベも上がって?無駄遣いも減る…かもしれないし……?」
「ははっ、なんだそれ。シキって意外と堅実なんだな」
「意外と、は余計っす!」
失礼しちゃう!とむくれるとハヤトっちがまた笑った。……なんだか、いつもみたいになんでもないやり取りをしていても、ハヤトっちのお家に二人っきりでお泊まり〜ってシチュエーションを意識しただけで、幸せすぎて胸がムズムズして爆発しそうになる。
「……あのさ、変なこと聞いちゃうけど……シキは、その……本当に俺のこと好き?」
「えっ!? 好きに決まってるじゃないっすか! ていうか好きって言った!」
「そ、そうだよな! そう、なんだけど……」
うーん……と何か考え込んでる様子のハヤトっち。
何でそんなことわざわざ聞くんすか!? どうしてオレの言うこと信じてくれないんすか! ねぇねぇ何で!?って質問攻めしたくなる気持ちをグッとおさえる。落ち着けー、落ち着け、オレ……。
「…好きってちゃんと言ったの、信じてくれないんすか」
「信じてるよ! 信じてる…っていうか、シキが俺のこと好きなのはちゃんと前からわかってたし……。……なんて、自分で言うのは変だけどさ」
そう言って、ハヤトっちが照れ笑いをする。その顔は今は見えないけど、どんな表情なのかは声を聞けばなんとなくわかる。
「でも、好きって言っても“好き”の種類にはいろいろあるだろ? ドーナツが好きとか、音楽が好きとか、バンドが好きとか……」
「…オレはハヤトっちのこと、“愛してる”の好きっすけど」
「なっ…!」
ハヤトっちが顔を真っ赤にする。
小さい電気しか点けてないから見えないけど、絶対真っ赤にしてる。確実にそう。
「アレ? 告白したとき『愛してる』って言ってなかったっけ? じゃあ今言うっす! ハヤトっち大好き! ハヤトっち愛してる!」
「そ、そうじゃなくって! ……シキはさ、たとえば…High×Jokerのことも愛してるだろ?」
「そりゃトーゼンっす! High×Jokerラブっす!」
「じゃあ、シキが俺に言ってる『愛してる』も…きっと、そういうことなんじゃないかなって、俺は思うんだけど……」
「そういうことって、何がどういうことっすか?」
さっきからハヤトっちがなんだかモジモジしててハッキリしないから、いまいち話が見えてこない。
「ハヤトっちの言いたいこと、全然わかんないっす」
「う〜ん……なんて言えばいいのかな……。…あの、もしキツい言い方してたら本当ごめん! シキを責める気は本当に全然ないんだ。ただ……」
「?」
「シキは恋愛の“好き”と、High×Jokerラブの“好き”を勘違いしてたりしない?」
「え?」
本当に、話が全然見えてこない。
「ほら、シキって思い立ったら止まらないところあるだろ。だから……これ、自分で言うのすげー恥ずかしいんだけど……シキが俺のこと好きだって気持ちが高まりすぎて、その、今は目が曇ってるんじゃないかって……」
「目がくもる、ってメガネがくもるみたいなこと?」
「あ、うん」
「……オレはちゃんと、いつもピカピカのメガネで見てるみたいな気持ちでハヤトっちのこと好きっすけど。……じゃなくて! ハヤトっちのこと“愛してる”っすけど……」
「シ、シキ……。ごめんな、あの、傷つけたかったわけじゃなくて、むしろその、逆なんだけど……、ご、ごめん! 俺、今なんかテンパってる!」
「…別に、ハヤトっちが優しいのは言われなくてもわかってるっす。だって“愛してる”もん」
「あ、あんまり軽々しく言うなって! そういうことは!」
「だって本当だもん」
ハヤトっち、それ恋人に「愛してる」って言われたときの反応じゃなくない? ちょっと傷つくんだけど!?
「……ていうか、ハヤトっち……やっぱり男子と付き合うの、イヤだった?」
「えっ、……そ、それは……」
「オレだって、ハヤトっちはいつも女子ウケ最優先だから悩んでたんすよ。告白するかどうか」
「……」
「オレが『思い立ったら止まらないところがある』っていうのは確かにそうっす。でも、我慢できるときだってちゃんとあるし、ハヤトっちのときはちゃんと悩んでから告白するって決めて、それから告白したっす」
「……そっか。ごめんな、シキ。さっきはシキのこと、勝手に決めつけたりして……」
「…いいっすけど」
「俺、シキに告白されて、シキと…付き合ってて、イヤだなんて思わないよ。思うわけない」
「……ありがとうっす」
ハヤトっちはやっぱり優しい。……優しいから、オレのワガママに付き合ってくれてるのかもしれない。別に、オレはそんなのだったらいらないのに。男子と……っていうかオレと恋人になるのに抵抗があるんだったら、最初からフってくれれば良かったのに。
「無神経なこと聞いて怒らせちゃったのは本当ごめん。それでさ…、」
「べ、別に怒ってないっす! おやすみ!」
「シキ、ちょっと待てって……」
「…………」
ハヤトっちがこれから何を言うつもりだったのか、聞くのが怖くて寝たふりをしてしまった。……寝たふりっていうか、もうただの無視だけど。
「シキ、おーい……。もう寝ちゃった?」
「……」
──あーもうオレのバカバカ! ハヤトっちのバカ!…って、オレん家だったらベッドの上で暴れ回ってたところだけど、今日はハヤトっちのお家にお邪魔してるから大人しくじっとしてるしかない。
ハヤトっちの声から逃げるように壁の方を向いて、息を殺して寝たふりをしているうちに、オレはいつのまにか本当に寝落ちていたらしい。
……それで、ハヤトっちのことが気になって眠りが浅かったのか、目覚めたら夜中の二時で。
起きたついでにトイレに行って洗面所で手を洗っていたら、鏡の中のオレはすっかり「冴えないメガネくん」って感じのしょぼくれた顔をしていましたとさ……ってわけ。
あーあ、さすがに言いすぎたかな。起きたらハヤトっちに謝らないと……。
「あ…シキ!」
「わ!? ハヤトっち、どうしたんすか! こんな時間に…」
「それはこっちのセリフだよ!」
「え、ハヤトっちもトイレ?」
「いや、トイレは別に大丈夫だけど……。じゃなくて!」
(泣いてる……)と思うと、オレは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
こんな形じゃなくて、ちゃんと恋人だったら、ハヤトっちのことを恋人みたいに優しく抱きしめてあげられるのに……なんて思うともどかしくて、今の気持ちをどこに持って行ったらいいかわからない。
「あの、ハヤトっち、」
「良かったぁ……。だって、俺がシキのこと疑うようなこと言っちゃったから、謝りたかったのに、さっきは謝るタイミング流しちゃって、うぅっ……」
「そ、それは大丈夫っすから! ていうか涙出てるし! ティッシュ、ティッシュ……」
急いでリビングからティッシュを探してきてハヤトっちに差し出す。
「はい、ティッシュ」
「ありが、と…うっ、ぐす……」
「……もしかして、オレがハヤトっちのこと無視しちゃったから、オレがハヤトっちに悲しい思いさせたから、泣いちゃったっすか?」
「ち、違うって! ただ、俺は……。シキがいなくなっちゃったかと思って、でも、まだ、靴あったから……えぐっ…。だから、今度こそちゃんと謝ろうと思ったのに、シキの顔見たら涙が出てきちゃって……」
「ハヤトっち……」
やっぱり、この人のことが好きだ。メガアツくて、涙もろくて、初めて会ったときからスターみたいにヤバいくらいキラキラしてて、オレの世界を変えてくれた人。優しくてハイパーカッコよくて大好きな憧れの先輩……。
「……ハヤトっちは今、オレにぎゅーって抱きしめられても、嫌じゃない?」
「嫌なわけ…ないよ……」
「ホントのホント?」
「……うん、あれから考えたけど、やっぱり俺、シキの恋人でいたいなって、これからの人生、ずっと一緒に過ごすのがシキだったらすごく楽しそうだし、一生仲良くできそうだなって。今日一緒にいてすごく楽しかったし……幸せだった」
「! そんな……こっちが泣きそうっすよ!」
「……えー、おほん。シキは…今、俺にとって大切な恋人だよ。シキのこと悲しませたくないし、その……ちゃんと“愛してる”って言えるくらい、シキのことが大好きで…大切だって、今日やっと、本当にわかった気がするんだ。……さっきは、シキの気持ち、ちゃんと信じてあげられなくてごめん」
「ハヤトっち〜〜!!」
思わず飛びついてぎゅーっと腕の中に抱きしめたハヤトっちはなんだかいつも以上に小さく感じて、すごく温かかった。
◇
「シキ、こっちこっち」
ロフトベッドにつながるハシゴを上ろうとすると、下からハヤトっちに手を引かれた。
これって、もしかして……!?
「え!? 一緒に寝ていいんすか!?」
「うん。本当は最初から一緒に寝ようと思ってたんだけど、ロフトベッドに二人だと危ないし、シキって高いところで寝たりするの好きそうだから布団で俺と一緒だと悪いかな?って思って、言わなかったんだ」
「そ、そんなこと!……確かにハヤトっちのベッドにちょっとワクワクしたのは本当っすけど、でもハヤトっちと一緒のお布団の方が断然ワクワクするっす!」
「シキ……」
オレの言葉にハヤトっちが顔を赤らめる。これはもしかすると、もしかして本当に……?
「あっ! それじゃ一緒にベッドで寝たらきっとドキドキ二倍っす!」
「それは危ないからダメ!」
「えー、ハヤトっちのケチ〜」
いつもみたいにくだらない会話をしながら布団にもぐり込む。布団の中はハヤトっちの体温でぬくくて、それだけでドキドキする。
「へへ、おやすみ。シキ」
小さな電気だけ点けたうす明かりの中で、照れたような笑顔がまぶしい。
「ふぁ……。おやすみなさいっす……」
ハヤトっちの隣でハヤトっちの体温を感じていると、胸の中が幸せでいっぱいでふわふわする。
幸せだけど、幸せすぎてジタバタするくらい胸がぎゅーっとなって思わず走り出したくなるような、幸せが胸の中でグルグルして苦しいくらいの気持ち。
オレの心臓のドキドキも、嬉しすぎて爆発しそうな気持ちも、全部ハヤトっちに見せてあげられたらいいのに!
そんなもどかしさと、ハヤトっちの体温に包まれているようなくすぐったい嬉しさの中で、オレはとろんとまぶたを閉じた。
洗面所の鏡に映ったオレの顔があまりにもしょぼくれてるから、思わずため息が出てしまう。
なーんか、今の顔「第一印象=冴えないメガネくん」って感じ。
……せっかくおニューのフレームのメガネまでおろしてきたのにこんな顔してたら全然台無しじゃん。
「……もっと喜べっつーの、オレ」
……今日寝る直前までは普通に…っていうか、むしろマジメガマックス楽しすぎてヤバいくらいだった。
一緒にレースゲームしてハヤトっちがヤバい負け方したときはお腹が痛くなるくらい笑ったし、二人で作ったカレーは激うまだったし、っていうか…そう! カレー作ってるときとか超ドキドキした! なんか特別な二人の共同作業!みたいな感じで…! っていうかハヤトっち意外と手際いいし。あと、二人でスーパーに買い出しに行って食材買って、寝る前のお菓子も二人でいろいろ見て選んで買って……そしたらジュンっちに見られたら叱られそうなくらい買い物カゴがお菓子でいっぱいになっちゃって──(カレーの隠し味に使う激辛調味料も本当は買いたかったけどハヤトっちに今日はダメ!って言われたのでしぶしぶ我慢した)
もし将来ハヤトっちと……同棲か結婚かはわかんないけど、とにかく一緒に住んだら毎日こんな感じなのかなーって想像してみたらマジメガハッピーすぎて、絶対ハヤトっちのこと放したくないって、ずーっと恋人でいてほしいって、オレは思ってたのに……。
……はぁ。
深いため息が出るのと同時に、今日寝る直前にハヤトっちと話したことを思い出す。
「へへ、今日すっげー楽しかった!」
「はいっす! オレもオレも! ハヤトっちのお家メガ楽しすぎてヤバすぎっす! えへへ…」
ハヤトっちがベッドを譲ってくれたのでオレはロフトベッド、ハヤトっちは床でお布団。……せっかくだし一緒の布団で寝れば良かったなー、なんて思いつつも、ハシゴを使って上る高い位置のベッド(そして、ハヤトっちがいつも寝ているベッド)にはワクワクドキドキしちゃってたり。
「ねぇねぇ、ハヤトっちは将来住むならどんなお家がいいっすか!?」
「へっ!? 家!?」
「はいっす! やっぱり庭付き? 一戸建て? 場所は事務所の近くがいいっすよね〜……。あとあと、オレはネコっちが飼いたいっす! 一匹だけだと寂しいかもだから兄弟でお迎えして……。それから、寝る部屋は絶対二人一緒で……その、ベッドも一緒がいいんすけど、ハヤトっち的にはどうっすか!?」
「えっ、えぇ…!? ちょ、ちょっと待てってば! そんな急に言われても……」
「え〜っ、いいじゃないっすか! 想像するだけならタダっすよ! タダ! それに、その…こういうのって具体的に決めておいた方が貯金のモチベも上がって?無駄遣いも減る…かもしれないし……?」
「ははっ、なんだそれ。シキって意外と堅実なんだな」
「意外と、は余計っす!」
失礼しちゃう!とむくれるとハヤトっちがまた笑った。……なんだか、いつもみたいになんでもないやり取りをしていても、ハヤトっちのお家に二人っきりでお泊まり〜ってシチュエーションを意識しただけで、幸せすぎて胸がムズムズして爆発しそうになる。
「……あのさ、変なこと聞いちゃうけど……シキは、その……本当に俺のこと好き?」
「えっ!? 好きに決まってるじゃないっすか! ていうか好きって言った!」
「そ、そうだよな! そう、なんだけど……」
うーん……と何か考え込んでる様子のハヤトっち。
何でそんなことわざわざ聞くんすか!? どうしてオレの言うこと信じてくれないんすか! ねぇねぇ何で!?って質問攻めしたくなる気持ちをグッとおさえる。落ち着けー、落ち着け、オレ……。
「…好きってちゃんと言ったの、信じてくれないんすか」
「信じてるよ! 信じてる…っていうか、シキが俺のこと好きなのはちゃんと前からわかってたし……。……なんて、自分で言うのは変だけどさ」
そう言って、ハヤトっちが照れ笑いをする。その顔は今は見えないけど、どんな表情なのかは声を聞けばなんとなくわかる。
「でも、好きって言っても“好き”の種類にはいろいろあるだろ? ドーナツが好きとか、音楽が好きとか、バンドが好きとか……」
「…オレはハヤトっちのこと、“愛してる”の好きっすけど」
「なっ…!」
ハヤトっちが顔を真っ赤にする。
小さい電気しか点けてないから見えないけど、絶対真っ赤にしてる。確実にそう。
「アレ? 告白したとき『愛してる』って言ってなかったっけ? じゃあ今言うっす! ハヤトっち大好き! ハヤトっち愛してる!」
「そ、そうじゃなくって! ……シキはさ、たとえば…High×Jokerのことも愛してるだろ?」
「そりゃトーゼンっす! High×Jokerラブっす!」
「じゃあ、シキが俺に言ってる『愛してる』も…きっと、そういうことなんじゃないかなって、俺は思うんだけど……」
「そういうことって、何がどういうことっすか?」
さっきからハヤトっちがなんだかモジモジしててハッキリしないから、いまいち話が見えてこない。
「ハヤトっちの言いたいこと、全然わかんないっす」
「う〜ん……なんて言えばいいのかな……。…あの、もしキツい言い方してたら本当ごめん! シキを責める気は本当に全然ないんだ。ただ……」
「?」
「シキは恋愛の“好き”と、High×Jokerラブの“好き”を勘違いしてたりしない?」
「え?」
本当に、話が全然見えてこない。
「ほら、シキって思い立ったら止まらないところあるだろ。だから……これ、自分で言うのすげー恥ずかしいんだけど……シキが俺のこと好きだって気持ちが高まりすぎて、その、今は目が曇ってるんじゃないかって……」
「目がくもる、ってメガネがくもるみたいなこと?」
「あ、うん」
「……オレはちゃんと、いつもピカピカのメガネで見てるみたいな気持ちでハヤトっちのこと好きっすけど。……じゃなくて! ハヤトっちのこと“愛してる”っすけど……」
「シ、シキ……。ごめんな、あの、傷つけたかったわけじゃなくて、むしろその、逆なんだけど……、ご、ごめん! 俺、今なんかテンパってる!」
「…別に、ハヤトっちが優しいのは言われなくてもわかってるっす。だって“愛してる”もん」
「あ、あんまり軽々しく言うなって! そういうことは!」
「だって本当だもん」
ハヤトっち、それ恋人に「愛してる」って言われたときの反応じゃなくない? ちょっと傷つくんだけど!?
「……ていうか、ハヤトっち……やっぱり男子と付き合うの、イヤだった?」
「えっ、……そ、それは……」
「オレだって、ハヤトっちはいつも女子ウケ最優先だから悩んでたんすよ。告白するかどうか」
「……」
「オレが『思い立ったら止まらないところがある』っていうのは確かにそうっす。でも、我慢できるときだってちゃんとあるし、ハヤトっちのときはちゃんと悩んでから告白するって決めて、それから告白したっす」
「……そっか。ごめんな、シキ。さっきはシキのこと、勝手に決めつけたりして……」
「…いいっすけど」
「俺、シキに告白されて、シキと…付き合ってて、イヤだなんて思わないよ。思うわけない」
「……ありがとうっす」
ハヤトっちはやっぱり優しい。……優しいから、オレのワガママに付き合ってくれてるのかもしれない。別に、オレはそんなのだったらいらないのに。男子と……っていうかオレと恋人になるのに抵抗があるんだったら、最初からフってくれれば良かったのに。
「無神経なこと聞いて怒らせちゃったのは本当ごめん。それでさ…、」
「べ、別に怒ってないっす! おやすみ!」
「シキ、ちょっと待てって……」
「…………」
ハヤトっちがこれから何を言うつもりだったのか、聞くのが怖くて寝たふりをしてしまった。……寝たふりっていうか、もうただの無視だけど。
「シキ、おーい……。もう寝ちゃった?」
「……」
──あーもうオレのバカバカ! ハヤトっちのバカ!…って、オレん家だったらベッドの上で暴れ回ってたところだけど、今日はハヤトっちのお家にお邪魔してるから大人しくじっとしてるしかない。
ハヤトっちの声から逃げるように壁の方を向いて、息を殺して寝たふりをしているうちに、オレはいつのまにか本当に寝落ちていたらしい。
……それで、ハヤトっちのことが気になって眠りが浅かったのか、目覚めたら夜中の二時で。
起きたついでにトイレに行って洗面所で手を洗っていたら、鏡の中のオレはすっかり「冴えないメガネくん」って感じのしょぼくれた顔をしていましたとさ……ってわけ。
あーあ、さすがに言いすぎたかな。起きたらハヤトっちに謝らないと……。
「あ…シキ!」
「わ!? ハヤトっち、どうしたんすか! こんな時間に…」
「それはこっちのセリフだよ!」
「え、ハヤトっちもトイレ?」
「いや、トイレは別に大丈夫だけど……。じゃなくて!」
(泣いてる……)と思うと、オレは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
こんな形じゃなくて、ちゃんと恋人だったら、ハヤトっちのことを恋人みたいに優しく抱きしめてあげられるのに……なんて思うともどかしくて、今の気持ちをどこに持って行ったらいいかわからない。
「あの、ハヤトっち、」
「良かったぁ……。だって、俺がシキのこと疑うようなこと言っちゃったから、謝りたかったのに、さっきは謝るタイミング流しちゃって、うぅっ……」
「そ、それは大丈夫っすから! ていうか涙出てるし! ティッシュ、ティッシュ……」
急いでリビングからティッシュを探してきてハヤトっちに差し出す。
「はい、ティッシュ」
「ありが、と…うっ、ぐす……」
「……もしかして、オレがハヤトっちのこと無視しちゃったから、オレがハヤトっちに悲しい思いさせたから、泣いちゃったっすか?」
「ち、違うって! ただ、俺は……。シキがいなくなっちゃったかと思って、でも、まだ、靴あったから……えぐっ…。だから、今度こそちゃんと謝ろうと思ったのに、シキの顔見たら涙が出てきちゃって……」
「ハヤトっち……」
やっぱり、この人のことが好きだ。メガアツくて、涙もろくて、初めて会ったときからスターみたいにヤバいくらいキラキラしてて、オレの世界を変えてくれた人。優しくてハイパーカッコよくて大好きな憧れの先輩……。
「……ハヤトっちは今、オレにぎゅーって抱きしめられても、嫌じゃない?」
「嫌なわけ…ないよ……」
「ホントのホント?」
「……うん、あれから考えたけど、やっぱり俺、シキの恋人でいたいなって、これからの人生、ずっと一緒に過ごすのがシキだったらすごく楽しそうだし、一生仲良くできそうだなって。今日一緒にいてすごく楽しかったし……幸せだった」
「! そんな……こっちが泣きそうっすよ!」
「……えー、おほん。シキは…今、俺にとって大切な恋人だよ。シキのこと悲しませたくないし、その……ちゃんと“愛してる”って言えるくらい、シキのことが大好きで…大切だって、今日やっと、本当にわかった気がするんだ。……さっきは、シキの気持ち、ちゃんと信じてあげられなくてごめん」
「ハヤトっち〜〜!!」
思わず飛びついてぎゅーっと腕の中に抱きしめたハヤトっちはなんだかいつも以上に小さく感じて、すごく温かかった。
◇
「シキ、こっちこっち」
ロフトベッドにつながるハシゴを上ろうとすると、下からハヤトっちに手を引かれた。
これって、もしかして……!?
「え!? 一緒に寝ていいんすか!?」
「うん。本当は最初から一緒に寝ようと思ってたんだけど、ロフトベッドに二人だと危ないし、シキって高いところで寝たりするの好きそうだから布団で俺と一緒だと悪いかな?って思って、言わなかったんだ」
「そ、そんなこと!……確かにハヤトっちのベッドにちょっとワクワクしたのは本当っすけど、でもハヤトっちと一緒のお布団の方が断然ワクワクするっす!」
「シキ……」
オレの言葉にハヤトっちが顔を赤らめる。これはもしかすると、もしかして本当に……?
「あっ! それじゃ一緒にベッドで寝たらきっとドキドキ二倍っす!」
「それは危ないからダメ!」
「えー、ハヤトっちのケチ〜」
いつもみたいにくだらない会話をしながら布団にもぐり込む。布団の中はハヤトっちの体温でぬくくて、それだけでドキドキする。
「へへ、おやすみ。シキ」
小さな電気だけ点けたうす明かりの中で、照れたような笑顔がまぶしい。
「ふぁ……。おやすみなさいっす……」
ハヤトっちの隣でハヤトっちの体温を感じていると、胸の中が幸せでいっぱいでふわふわする。
幸せだけど、幸せすぎてジタバタするくらい胸がぎゅーっとなって思わず走り出したくなるような、幸せが胸の中でグルグルして苦しいくらいの気持ち。
オレの心臓のドキドキも、嬉しすぎて爆発しそうな気持ちも、全部ハヤトっちに見せてあげられたらいいのに!
そんなもどかしさと、ハヤトっちの体温に包まれているようなくすぐったい嬉しさの中で、オレはとろんとまぶたを閉じた。