ナツキの第一印象は……何だろう?
うーん、最初に軽音部室に入ったとき、なんかすげー美形がいるなーってぼんやり思ってたのは覚えてる。あの頃のナツキは今より無口で大人しかったしあまり自己主張しないやつだったから、「こいつはどんなやつなのか」というより、とにかく美形だなーって見た目の印象が先に来てた。
でも、それはナツキ自身がどんなやつかが印象に残らなかったというより、ナツキの顔があんまりキレイだったからついそっちに目が行ってたんだと思う。作り物みたいに整った顔で、THE・イケメン!って感じでカッコよくて、あとこう言ったらヘンな感じだけどなんとなく色気があって……なんかとにかくついチラチラ見てしまう。
ある日、オレはジュンに「ナツキの顔ってすげーキレイだよなー」と話を振ってみたけど、
「……はあ。僕はナツキの顔はナツキの顔だな、としか感じませんが……」
と、あきれた顔をされるばかりだった。
「マジか!? 見慣れてるとそういうもんなのか……?」
「まあ、ナツキが一般的に美形だとされる顔だというのは、さすがに周囲の反応からわかりますが。……別に、僕はそれ以上はどうこう思いません」
ジュンはどうやら本気でそう思っているらしく、猫みたいにそっけないすまし顔をしていた。
「何だと〜、ジュンは贅沢ものだな〜。うりうり〜」
「ちょっ……! 理不尽に絡んでこないでください! 意味がわかりません!」
……うーん、美人は三日で飽きる、とか言うし、ジュンもそのくちか?
でも、オレはナツキと知り合って数ヶ月(まあジュンと比べたらほんの少しだけど)経っても、ナツキの顔に飽きたりはしていない。
それどころかナツキの新しい一面を知るたびに、ナツキの見たことない表情を見るたびに、……なんて言うか、ナツキの顔にさらにドキッとするようになってる。
出会った頃からナツキの印象はだいぶ変わった。一見クールっぽいけど意外とおっとりしてて優しい。ああ見えてわりとボケるし天然。そして、実はアイドルの仕事にすごく真剣でアツいやつ。
そして、人のいいところはよく気がつくけど自分にはあまり自信がない。
言ってしまえば、そんなケンキョなところすらナツキのいいところ……なのかもしれないけど、それはなんだかオレにとってはもどかしい。
ある日、ナツキと部室に二人きりになったタイミングでこう切り出してみた。
「オレさ、ナツキが笑ってると嬉しいんだよなー」
「……? えっと……」
「今みたいに無言でドーナツもりもり食ってるときの顔とか、すげー好きでさ」
「え、うん……」
「だからさ、ナツキってアイドル向きだよなー。羨ましいぜ」
「そ、そんなこと……。それに、ハルナも、ドーナツ食べてるときの顔……いい顔だと、思う……」
「えー、そうかあ?」
「うん……美味しそう、だから……」
ナツキが食べかけのきなこドーナツを手にしたまま、ふんわりとほほえむ。
直視するとまぶしいくらい顔がいい。
「あー、なるほど。美味そうな顔なら確かに自信があるぜ!」
「ん……ふふ」
ナツキが手で口元を隠して笑った。なんか女子っぽい仕草だけど、様になってる。
「……それでね、……ハルナ、俺……食べてる間、あっち向いてるから……その、食べ終わるまで……あんまり、見ないで……」
「えっ」
「ちょっと、恥ずかしくて……ドーナツの味……わからなくなっちゃう……」
「お、おう……」
困った顔の夏来が向こうを向いて座ってしまったので、オレもなんとなく視線を逸らす。
……オレの褒め方がアレだったのか、なんだか変な雰囲気になってしまった。
シーンと静かな部室で、ナツキがもそもそとドーナツを静かに食べる音を聞きながら、あー、悪いことしちまったかなー……とオレは今さら後悔した。
いつもとは違うタイプの沈黙が変に気まずくてくすぐったい。
……頼む、誰か今すぐ来てくれ……!
「すみません、遅くなりました」
「お、おう、ジュン、お疲れー」
部室に戻ってきたのは、真面目で気難しい丸い頭のユニットメンバーだった。
そして、ナツキがわざわざ椅子を反対向きにしてそっぽを向いていることに気づくと、ジュンは眉をひそめた。
「……何してるんだ?」
「あー、ちょっとな。別にケンカしたとか、そういうわけじゃ、全然ないんだけどさ……」
不審そうな顔のジュンに事情を説明しようとすると、
「……だって、ハルナが……ふふ……俺の顔、ずっと、見てくるから……」
と、ナツキがくすくす笑いながらこっちを振り返った(きなこドーナツはいつのまにかぺろりと食べ終わっていた)。
「はあ……?」
ナツキの話を聞いたジュンがさらに眉をひそめる。なんかよくわかんないけど、もしかしたらヘンな勘違いをされていそう気がする……!
「あ、いや、別にナツキの顔がキレイだなーって普通に見てただけだって! 変な意味じゃない!」
「ふーん……。まあ、別に僕には関係のないことですけど」
「いや、何か勘違いしてないか?!」
「……別に、僕は人のそういうことには口を出さない主義なので。春名さん達のことは何も気にしてないので、どうぞ勝手にしてください」
「えっ、そういうこと……って、何……? ジュン、どういうこと……?」
ナツキが口を挟んで話が変にこじれてきたところで、二人分の足音がパタパタと部室に駆け込んできた。
「ごめん、みんな! 今日のホームルーム長引いちゃってさ!」
「お待たせっすー! 早くミーティング始めるっすよー!」
良かった、これで空気がうやむやに……。
「ハルナ、あのね……」
……と思った瞬間、不意にナツキに耳打ちされて肩が跳ねる。
「……さっきは意地悪して、ごめんね……? あの、二人きりのときだったら、顔……見てて、いいから……」
「え、あの、」
「俺、ハルナに顔、見られるの……嫌じゃない、よ……」
「え、あ、はい……」
「ふふ、ハルナ……面白い顔、してるね……」
そうささやいたナツキが見たことのない笑顔をしたから、胸の奥がじんわりとくすぐったくなる。
オレの知らないナツキを知るたびに、ナツキに心がひかれていく。それは今まで感じたことのない不思議な感覚で、なんだか少し、頭がくらりとしてしまった。
うーん、最初に軽音部室に入ったとき、なんかすげー美形がいるなーってぼんやり思ってたのは覚えてる。あの頃のナツキは今より無口で大人しかったしあまり自己主張しないやつだったから、「こいつはどんなやつなのか」というより、とにかく美形だなーって見た目の印象が先に来てた。
でも、それはナツキ自身がどんなやつかが印象に残らなかったというより、ナツキの顔があんまりキレイだったからついそっちに目が行ってたんだと思う。作り物みたいに整った顔で、THE・イケメン!って感じでカッコよくて、あとこう言ったらヘンな感じだけどなんとなく色気があって……なんかとにかくついチラチラ見てしまう。
ある日、オレはジュンに「ナツキの顔ってすげーキレイだよなー」と話を振ってみたけど、
「……はあ。僕はナツキの顔はナツキの顔だな、としか感じませんが……」
と、あきれた顔をされるばかりだった。
「マジか!? 見慣れてるとそういうもんなのか……?」
「まあ、ナツキが一般的に美形だとされる顔だというのは、さすがに周囲の反応からわかりますが。……別に、僕はそれ以上はどうこう思いません」
ジュンはどうやら本気でそう思っているらしく、猫みたいにそっけないすまし顔をしていた。
「何だと〜、ジュンは贅沢ものだな〜。うりうり〜」
「ちょっ……! 理不尽に絡んでこないでください! 意味がわかりません!」
……うーん、美人は三日で飽きる、とか言うし、ジュンもそのくちか?
でも、オレはナツキと知り合って数ヶ月(まあジュンと比べたらほんの少しだけど)経っても、ナツキの顔に飽きたりはしていない。
それどころかナツキの新しい一面を知るたびに、ナツキの見たことない表情を見るたびに、……なんて言うか、ナツキの顔にさらにドキッとするようになってる。
出会った頃からナツキの印象はだいぶ変わった。一見クールっぽいけど意外とおっとりしてて優しい。ああ見えてわりとボケるし天然。そして、実はアイドルの仕事にすごく真剣でアツいやつ。
そして、人のいいところはよく気がつくけど自分にはあまり自信がない。
言ってしまえば、そんなケンキョなところすらナツキのいいところ……なのかもしれないけど、それはなんだかオレにとってはもどかしい。
ある日、ナツキと部室に二人きりになったタイミングでこう切り出してみた。
「オレさ、ナツキが笑ってると嬉しいんだよなー」
「……? えっと……」
「今みたいに無言でドーナツもりもり食ってるときの顔とか、すげー好きでさ」
「え、うん……」
「だからさ、ナツキってアイドル向きだよなー。羨ましいぜ」
「そ、そんなこと……。それに、ハルナも、ドーナツ食べてるときの顔……いい顔だと、思う……」
「えー、そうかあ?」
「うん……美味しそう、だから……」
ナツキが食べかけのきなこドーナツを手にしたまま、ふんわりとほほえむ。
直視するとまぶしいくらい顔がいい。
「あー、なるほど。美味そうな顔なら確かに自信があるぜ!」
「ん……ふふ」
ナツキが手で口元を隠して笑った。なんか女子っぽい仕草だけど、様になってる。
「……それでね、……ハルナ、俺……食べてる間、あっち向いてるから……その、食べ終わるまで……あんまり、見ないで……」
「えっ」
「ちょっと、恥ずかしくて……ドーナツの味……わからなくなっちゃう……」
「お、おう……」
困った顔の夏来が向こうを向いて座ってしまったので、オレもなんとなく視線を逸らす。
……オレの褒め方がアレだったのか、なんだか変な雰囲気になってしまった。
シーンと静かな部室で、ナツキがもそもそとドーナツを静かに食べる音を聞きながら、あー、悪いことしちまったかなー……とオレは今さら後悔した。
いつもとは違うタイプの沈黙が変に気まずくてくすぐったい。
……頼む、誰か今すぐ来てくれ……!
「すみません、遅くなりました」
「お、おう、ジュン、お疲れー」
部室に戻ってきたのは、真面目で気難しい丸い頭のユニットメンバーだった。
そして、ナツキがわざわざ椅子を反対向きにしてそっぽを向いていることに気づくと、ジュンは眉をひそめた。
「……何してるんだ?」
「あー、ちょっとな。別にケンカしたとか、そういうわけじゃ、全然ないんだけどさ……」
不審そうな顔のジュンに事情を説明しようとすると、
「……だって、ハルナが……ふふ……俺の顔、ずっと、見てくるから……」
と、ナツキがくすくす笑いながらこっちを振り返った(きなこドーナツはいつのまにかぺろりと食べ終わっていた)。
「はあ……?」
ナツキの話を聞いたジュンがさらに眉をひそめる。なんかよくわかんないけど、もしかしたらヘンな勘違いをされていそう気がする……!
「あ、いや、別にナツキの顔がキレイだなーって普通に見てただけだって! 変な意味じゃない!」
「ふーん……。まあ、別に僕には関係のないことですけど」
「いや、何か勘違いしてないか?!」
「……別に、僕は人のそういうことには口を出さない主義なので。春名さん達のことは何も気にしてないので、どうぞ勝手にしてください」
「えっ、そういうこと……って、何……? ジュン、どういうこと……?」
ナツキが口を挟んで話が変にこじれてきたところで、二人分の足音がパタパタと部室に駆け込んできた。
「ごめん、みんな! 今日のホームルーム長引いちゃってさ!」
「お待たせっすー! 早くミーティング始めるっすよー!」
良かった、これで空気がうやむやに……。
「ハルナ、あのね……」
……と思った瞬間、不意にナツキに耳打ちされて肩が跳ねる。
「……さっきは意地悪して、ごめんね……? あの、二人きりのときだったら、顔……見てて、いいから……」
「え、あの、」
「俺、ハルナに顔、見られるの……嫌じゃない、よ……」
「え、あ、はい……」
「ふふ、ハルナ……面白い顔、してるね……」
そうささやいたナツキが見たことのない笑顔をしたから、胸の奥がじんわりとくすぐったくなる。
オレの知らないナツキを知るたびに、ナツキに心がひかれていく。それは今まで感じたことのない不思議な感覚で、なんだか少し、頭がくらりとしてしまった。